J.COSS開発経緯 

 J.COSS日本語理解テスト(J.COSS: JWU, Japanese Test for Comprehension of Syntax & Semantics)とは、英語版とそのフランス語版をもとに日本語独自の項目を含んで新たに開発した日本語理解テストです。

  原著である英語版(TROG; Bishop, 198 )はフランス語版や欧州各国語版に翻訳され、各言語における文法理解の習得過程の指標として確立されています。日本語のテストは、語彙知識を評価する絵画語彙発達検査(上野ら, 1991)や養育者が間接的に評価する日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問(小椋・綿巻,2004; 綿巻・小椋, 2004)などが主流となっており、文法知識を含み、対象者に直接実施できるテストはあまり制作されていませんでした。言語発達遅滞児や、ことばに問題を抱える学習障がい児な、聴覚障がい児、高次脳機能障がい者など、日本語理解にさまざまな困難を示す乳幼児、児童生徒、成人、高齢者などの言語能力を評価するテストを早急に開発する必要がありました。

 そこで、1997年に、日本語用のさまざまな文法項目を含んだテストがないということで、当時出版されてまだ間がなかったTROG(Test for Reception of Grammar)を見本に作成しようという提案が、故岡野恒也先生、須賀哲夫先生からありました。言語テストに興味を持つ大学院生や学部学生に声をかけ、J.COSS研究会が発足しました。TROGを中心に、フランス語版のL'E.CO.S.SEを参考にして作成した最初のJ.COSSをもって、東北や北海道の小学校、幼稚園を回りました。やがて、いくつかの初歩的な修正が加えられた第2版が作成されましたが、ジャクソンが指摘した高次神経システムの発達の様子から、高齢者の言語能力の衰退は、幼児の言語獲得過程とは逆のプロセスを辿るのではないかという仮説を立てて、高齢者にJ.COSSを応用する試みがなされました。その試みがかなりうまくいって、当初考えていたよりもJ.COSSが発達の広い範囲に適用できることがわかりました。。

  J.COSS第三版を用いて、これまでに全国の保育園・幼稚園・学童保育・小学校・高齢者福祉施設のご協力により、J.COSSは3000名以上の被検者を対象にテストの標準化を行いました。幼児や児童を対象とした日本語文法理解力の横断的調査(中川・小山・須賀, 2005)と、高齢者を対象とした調査(中川・小山, 2005)を行いました、これらのの結果から、ガットマン尺度(Guttman Scale)の再現性係数が0.869(まず信頼できる水準)となり、信頼性の高いテストであることが示唆されました。この調査結果にもとづき、幼児期から児童期、ならびに老齢期における日本語文法理解の生涯発達段階が示されています。 そこで示された発達順序と平均獲得時期は、言語発達診断の指標として価値ある基準を提供するものと考えられます。また、全国の養護施設や情緒障害短期療養施設の幼児や児童の文法理解力の評価から、言語発達遅滞児や障害児の発達水準や特質を分析し、その結果をもとに、理解が困難な授受関係や助詞関連項目に着目した個別の教育支援を展開し、飛躍的な理解改善が示されました。


J.COSS日本語テストで評価できるもの 

 J.COSS日本語理解テストは口頭もしくは書記で提示される語彙や文法項目を含んだ文章をどれぐらい理解できるかを評価することができます。日本語独自の助詞関連項目や、障がい児・者で困難が示される授受関係項目を含んだ20項目80問大から構成されています。このテストによって、乳幼児や児童・生徒の言語発達水準の評価することができます。また、幼児期から児童期にかけての20項目の標準的な発達水準とその習得順序を示していますので、言語に問題を抱える発達障害や、聴覚障がい、認知症、失語症などの高次脳機能障害方における日本語理解の発達水準を推測したり、障がい領域を特定することができます。

 また、日本語を母語とせずに、第二言語として日本語を学習する方を対象とした調査から、第二言語として日本語を学習する方の学習評価尺度としても活用することができます。 


J.COSS日本語理解テストの特徴 

 J.COSS日本語理解テストは聴覚版と視覚版があります。原著TROは聴覚版のみでしたが、私たちは視覚版(問題文が文字で提示されます)し、聴覚障がいの方にも実施することができるようになりました。

  また、テスト方法は個別検査法と、新たに集団検査法を開発しました。手続きが異なりますのでマニュアルを参照ください。